悠久幻想曲
≒0(Near ZERO)

For PBM

プロローグ(第0話) 
「カッセルの長き一日」

私の眠りを解く人は誰?
ふわふわと空間を漂って、
またここに帰ってくる
早くこの殻を破りたい。
外の景色が見たい。
お腹空いた・・・

Ⅰプレリュード
「アシュレイ先生、またもやられました!」
「何!またか…」
 ここは穏やかな街エンフィールド、今でこそ自治を敷いているこの街だが、今この者たちが居る場所はそんなエンフィールドではない。
 ここは100年前のエンフィールド…まだ王制が敷かれて王国の加護を受けていたそんな時代…
青年団の各部隊は?」
「犯罪系列の部隊は皆あたっていますが未だ成果が上がっていないようです。」
「そうか…」
 ここはそんな100年前の名所であった「アカデミー」と呼ばれる施設の教官控え室だ。恵まれるも常春のこの街は自然も豊かで王国の優れた人材を育てる為に士官養成機関を設立していた。それがこのアカデミーだった。
「狙われているのはいずれも若い子供達ばかり…いったい何の意図があるのでしょう?」
 そこでアシュレイと呼ばれた壮年の男性、彼はアカデミーの士官候補生達にさまざまな規律などを教える講師アシュレイ・ニューフィールドだ。
 しかし、なぜ街の事件に士官養成機関に対応が回ってくるのか…その答えは簡単だった。アシュレイは街の奉仕団体「青年団」のアカデミー側の後見人だったのだ。
 そして士官候補生達のカリキュラムの中には青年団への一定期間の奉仕活動が組み込まれているからだった。
「わからない、まだ断言するのは早計だな…。」
その時エンフィールドは連続幼児誘拐事件だこれまでに一日一人のペースで既に7人の子供が行方知れずになっている。
「未だに目撃者が居ないのは気がかりだが出来るだけ注意を促す事と警備の方の強化を。」
「わかりました。失礼します」

「さて・・この中の部屋で最後なのか…」
 時を遡る事1週間、エンフィールド南部に広がるローズレイク湖に点在する遺跡のひとつ・・・一攫千金を夢見る冒険者達がこぞってやってくる旧世代の遺産を守る遺跡・・・
 この遺跡が果たして彼の狙う旧世代の物なのかはわからないが、とにかく彼、カッセル・ジークフリートはそこにいた。
「ったくギルドの情報が間違っていたなんていう落ちはやめてほしい物だけどな。ってこの仕事は独り言が多くなるから嫌なもんだ・・・」
 そういってカッセルが最後になるという部屋の中に足を踏み入れた。
「おや?なにも・・・ないのか?」
 あたりを見回しながらカッセルが一人ごちる。この家業、遺跡に何もなくても生活保障がされるようなことはまずない、ローズレイクを移動する船代もばかにはならない。
自然とその足にも力が入る。
「おっ!・・何か壁に空洞があるな・・ちょっと打ち込んでみるか・・」
 天賦のトレジャーハンターの勘がどうやらその部屋に隠されているらしい、閉ざされた空間を暴く。するとカッセルは少し離れて呪文の詠唱をはじめる。
「ルーンバレット!」
 物理魔法の初期の魔法だがその魔力の弾丸はレンガの繋ぎ目の部分にうまくひびを入れる、魔法は威力ではなく効率で考え使うと地味でも実用的に扱うことができる
「んじゃあ、中を失礼して・・って何だこれ?卵?」
 カッセルが開いた空間の中にはみずいろに淡い光を放つ大きな卵が安置されていた。その卵はまるで生きているかのように規則正しく発光していた・・・。
ピキピキッ・・
 すると今まで穏やかな発光を続けていた卵が突如音をたてて割れ始めたのだ・・
「こいつ・・孵化しているのか・・?」
 本能的に危険を察知したカッセルはそのまま部屋の入り口まで戻りその卵の様子を観察してみた。
 卵はその間に見る見る剥がれていく、しかし次の瞬間カッセルは信じられない光景を目にした。
「て、手だぁ!?」
 卵から生まれたのは動物さを微塵も感じさせない人間の腕だった。
 そして次には黒くて長い髪を伸ばしたやはり人間の少女の頭が顔を見せた。
「女の子だぁ?」
ペタっ・・・ペタ・・
 ついに全身が外に出てレンガの床に足がつくその少女は何の衣服も身に付けていない。
「確かに生まれたばかりだから服は着てないだろうけど・・・。」
 生まれたばかりだけど人間的に見ると普通に女の子だ。14,5才・・
「さすがに裸はまずいよな・・」
 そう考えながらカッセルは自分のきていたジャケットを着せようと彼女に近づいた・・そのとき彼女の目が始めて開いた。
「う、ぁ・・。」
「おい。大丈夫か・・?とりあえずこれを着ろよ・・ってその前に身体を拭いたほうがいいな」
 そういってカッセルが少女に触れた瞬間、カッセルの意識がやみに消えていった
 

エチュード
「あれ?カッセルさんじゃない。この前紹介したローズレイクの遺跡のほううまくいったの?」
 街を歩いているカッセルに一人の少女が声をかけた
「えっ?あぁ、あの遺跡か・・?」
 少女の名前はリンネ・レッドフィールド。彼女はこの街の冒険者ギルドで勤めているカッセルの依頼も彼女が紹介した物だった。
「どうやらその表情じゃダメだったみたいね」
 多少あきれながら茶化すリンネだが当のカッセルは複雑な表情をしている。
「じつは今回の遺跡のこと良く覚えていないんだ。どうやってエンフィールドに帰ってきたのかもわからないんだけどいつのまにか船ごと戻ってきていたんだよ。」
「船ごと・・ですか?」
 道端でボーっと歩いていたカッセルはよほど滑稽に見えたらしいがちょっとシリアス入ってる彼にリンネも話をあわせる。
 するといきなり後ろからボソッと声がかかる
「女難の相が出ているわ。」
「うぁ!ってパルフェか・・おどかすなよ・・」
 突如、黒いゴシック調の黒衣を身にまとい熊のぬいぐるみを抱えた少女が現れる。
 彼女パルフェ・タムールはウィンザー教会でシスターとして活動している。しかしあまり熱心な方ではないらしく常に自分が面白いと感じる方向へ進んでいく。ただ教会に世話になっている手前、一応シスターとして教会に奉仕しているらしい。
 変わり者の彼女は日常でも手にした熊のぬいぐるみ「山本さん」と仲良く会話をしている光景はちょっと変わり者と言える勿論目の前の二人はそんな事を気にする方でもなかったので普通に接しているが・・
「きっと、カッセルさんは遺跡の女性型モンスターを無理やり部屋に連れ込んで記憶を失ってしまう程酷いことを・・」
「ちょっと待て・・俺は鬼畜か?」
 ちょっと暴走気味に言い放つパルフェに流石に反論するカッセル。そこにリンネがフォローする
「ほら、カッセルさんそんな事したら記憶失うのはカッセルさんじゃなくてその娘のほうよ」
「ちっ・・・」
 カッセルは内心そのリンネのフォローはどうか・・と思いながらパルフェの舌打ちを聞き流す・・しかし・・
「後ろからプレッシャー!!」
「はぁっー!」
 後ろから風切り音を鳴らし振り下ろされる物体。そのプレッシャーを感じ取ったカッセルは持ち前の反射でそれを避ける
「カッセルさん!貴方はっ!」
「ようミリュウ。いきなりな挨拶じゃないか・・どうした?」
「さっきパルフェちゃんが言っていたことは本当なんですか?!」
 道端で青年にライト・ウォーハンマーを叩きつける少女、ミリュウ・ユーフェルがいきりたって捲し立てる
「鬼畜ネタか・・パルフェの冗談に決まってるだろう?」
「えっ?冗・・談・・?」
 そういうとミリュウは顔を真っ赤に染めながらカッセルに謝罪する。
 正義感が強い彼女は毎回、悪の気配を察知して何処までも追跡し、撲滅する正義の神官戦士を目指して修行中なのだが、その正義感が今回のように仇となる場合が多々見受けられる・・
「まぁ、もう慣れたから気にしないけどな。おまえもそろそろパルフェに慣れたらどうだ?」
「はぁ・・」
 がっくりと肩を落とすミリュウにカッセルがフォローを入れる。
「でもカッセルさん。あながちその女難の相も当たらずとも遠からずって所かもしれないわね。」
 にっこり笑顔でそんなことを言ってくるリンネに今度はカッセルが落ち込む
「じょ、冗談だろ・・?それよりおまえ達、皆何しに行くんだ?」
「何って私とパルフェちゃんは教会にお祈りしに行きますよ?」
 そのとき皆はずっと道端で話し込んでいたことを思い出した
「あぁ、そうか・・リンネ、おまえは?」
「私もです、でも今日は午前中だけお仕事なので終わったら久しぶりにコロシアム行ってこようかなってカッセルさんは?」
「おれか?俺はこの前のことがあるしな、ちょっと休養してぶらついてるかな。」
「そう、それじゃここでお別れ・・」
「あっ、ちょっと待ってパルフェちゃん!」
「?」
 そういってその場を離れようとしたパルフェにリンネが呼び止める
「最近ギルドの方でも噂になっているみたいなんだけど、幼児の誘拐事件が多発しているみたいだからパルフェちゃんも気をつけてね。」
リンネは青年団から観光協会のほうに回っていた通達を告げる。しかしパルフェはそれに気にしたそぶりも見せなかった
「ご心配なくPCだから・・」
「?」
「それじゃあ、バイバイ・・。」
 パルフェ謎の台詞を残しミリュウを引き連れて教会へと向かっていった
「あの二人もよくわかんないよな性格もそうなんだけど」
「そう?パルフェちゃんは楽しんでるだけみたいだけど?あれはあれでよいんじゃないかな?
さてと私もそろそろ行きますね。」
そういうとリンネも勤め先の冒険者ギルドへと向かっていった。
一方一人残されたカッセルは街の中心部からシーフギルドのあるイーストロットの方角へ足を向けた。
「まぁ、しばらくはここでとどまることにもなるんだし挨拶しておいたほうがいいかもな。手土産わすれて厄介なことになっても困るしな・・」
そういってカッセルは歩いていると先にちょっとあたりとは違う佇まいの店が見えてくる。
「文月堂」ここはクイックという若き店主が経営するマジックアイテムを専門に扱う店だ。
 冒険者ギルドの経営が成り立つくらいの街は大抵近くに大きな遺跡や秘境呼ばれる地があり、そこから発掘される魔法の遺産を売買する店が存在するのだが、この文月堂はそのどれにも見ない極東と呼ばれる地方の建築様式で建てられた店だ。
「ちょっとここにも顔を出してみるか・・いやそれとも留守か?」
カッセルは何度かローズレイクに多数ある遺跡のひとつから遺産を持ち帰ってきたのだが、珍しく発掘の際「当たり」と呼ばれる魔法の武具を売り払おうとした時、他の店で価値の判らない商人に信じられない価格をつけられてリンネに相談した時に紹介された店なのだが
『ここの店主のクイック・ウォルサムっていうんだけど、彼のコレクションで開いているお店だから殆ど営業していないの。物を買う分にはバイトの子が居るみたいだけど売却交渉は多分彼を見つけたほうがよいと思うな』
などと言われ散々街じゅうを探して歩いた記憶がある

カラン
エンフィールドに珍しい横に開く扉に付いている鈴が柔らかい音を奏でる
「ん?あぁ、カッセルさんいらっしゃい。」
「今日はちゃんと居るんだな。その小さい子も客か?」
カッセルの視線の先には楽しそうに談笑する店主のクイックとウサギの帽子がかわいらしい少女が居た
「いやだなぁ、カッセルさん。最近はこれでも3日に1日はお店に立ってるんですよ?
今日はこの子の注文していた品が届いたので直接渡してあげようと思って」
 コクリとうなづく少女。
 しかしその年の頃は10歳前後に見える、とても客には見えなかった
「こんなに小さい子が何を注文するんだ?対した金にもならないだろう」
「そうでもないんですよ。この子はもっと別なもので支払ってくれますから。」
そういってクイックは営業スマイルを少女に向ける
「おい・・犯罪ではないよな・・?」
 ちょっと不安になったカッセルがクイックを問い詰めるしかし本人はいたってまじめに受け答えする
「犯罪?よく判りませんけど、よく魔術師組合のマジックアイテムを提供してくれるんですよ。そして僕は彼女が持ってきてくれた品に相当する商品を提供する。物々交換だけど十分立派な商談ですよ。ねぇ?プラムちゃん
「はいです。きょうはクイックに良い物を貰いましたりゅ。」
 そういってプラムと呼ばれた少女は自分の名前らしきプラム・D・ビットと書かれた予約票の張られた包みを広げる。
 その中には彼女にあつらえたサイズのカジュアルなセーラー服があった。するとクイックがカッセルに耳打ちしてくる。
「実は詳しくは知らないんだけれど彼女ちょっと病弱でね、太陽の光に浴びると気分が悪くなるらしいんだ。だからその太陽の光によるダメージを軽減する魔法の法衣なんです。」
そんなクイックの説明を聞いて世の中には判らない病もあるもんだなと思いながらカッセルは少女を見つめる。
「クイックぅ。これここで着て行って良いりゅ?」
「構わないよ。奥に試着室があるからそこで着替えておいで。」
「ハーイ!」
そういってプラムは奥にある試着室へ向かう
プラムの姿が消えてクイックはカッセルのほうへと向き直る
「ところで今日はカッセルさんは何の御用ですか?今日もかくれんぼですか?」
クイックの一言に初めてクイックに会うために街を奔走した記憶が甦る。
「何でもない・・挨拶回りか?それにあのかくれんぼも、もうごめんだ」
苦笑しながらカッセルはクイックに答える。するとそんなカッセルにクイックがお願い事をしてきた。
「だったら暇なんですよね?でしたらプラムちゃんを魔術師組合まで送り届けてくれませんか?自分の扱った商品の効力を信じないわけではないんですけど魔法も万能ではないんでそれにちょっと特殊な品物なので。」
「まぁ、構わないけど?」


「と言って簡単に引き受けたのは良いんだけど・・」
 プラムはいっしょに魔術師組合にくることになったカッセルの袖を引っ張りつづけたために魔術師組合に到着するころにはすっかり伸びきっていた。
「カッセルぅありがとうりゅ!」
 魔術師組合についたプラムはそういうと組合のそばの植え込みの陰にごそごそと潜って行った。
「あれくらいの子供はよく茂みに秘密基地!って言って作りたがるんだよな」
と自分を納得させるカッセル。
決してパルフェの言っていた女難の相とやらのせいではないと願った(心のそこから)


Ⅲロンド
「そうか、なかったか・・」
「あぁ、何もなかったよ。」
 プラムを送り届けたあとカッセルは前回の仕事の依頼主のアシュレイの住まいであるニューフィールド邸を訪れていた
 依頼人のアシュレイの一人娘であるローラ・ニューフィールドは長年不治の病に冒されていた。それを治療する為にカッセルに情報を得るたびに遺跡の古代の遺産に望みをかけて調査を依頼していた。
「アカデミーや青年団の仕事もあるのにあなたも大変だな。
自分たちの所で探すわけにも行かないんだろう?」
「ああそうだ。それに今は幼児誘拐事件やら街が騒がしいからな」
 するとそこに元気な声が響いてくる。
「お兄ちゃん!来てたのね!言ってくれれば迎えに行ったのに!」
二人が話している応接室に噂をすれば何とやら当のローラが乱入してくる
こうしていると不治の病と言うことが信じられない。
「おぅ。ちょっと前に帰ってきたばっかりだけどな。」
 乱入してきたローラにすでに伸びきった袖をさらに取られながらローラに答えるカッセル・・
「ちょうど良かった!ねぇお兄ちゃん.私とデートしない?こんな事件が続いてるからってパパったら一人で外に出ちゃだめっていうんだから。
ねぇパパ、お兄ちゃんと一緒ならいいでしょ?」
 愛娘のお願い光線に苦笑しながらアシュレイがカッセルの方を見る
「ん・・構わないがカッセル君のほうは・・」
「今日はもう諦めましたから」
 カッセルも観念したようで肩を落としていたが決して女難の相(以下略)・・
 

「んで?お嬢さまはどちらへおでかけのご予定でしたか?」
「あら、デートコースは男の子が用意するものじゃない!」
「まぢか?俺だって当てもなく歩いてただけだったから本当に散歩だぞ?」
しかしローラの方は数日間、外出禁止令が出されていたらしく、それでも十分に楽しそうに跳ね回っていた。

「ン?あんなところに人だかりが出来ているな?」
「あっ本当だ!お兄ちゃん!私見て来るね?」
 カッセルとローラは陽光がまぶしい日の当たる丘公園に来ていた。爽やかなその公園はいつもたくさんの人間でにぎわっていたが今日のそこには一際目立つ人だかりが出来ていた
「どうせまた何かの物売りだと思うけどな」
「ンしょ・・ううっちょっと皆、私にも見せてよぉ。」
人だかりの外側まで辿りついたローラだったが廻りの人間達に囲まれて中の様子を見る事が出来ない。そんなローラを心の中で笑いながらカッセルがローラの身体を持ち上げた
「ほら、これで良く見えるだろ?何が見える?」
「本当だ!えっとねぇ、なんか可愛い女の子が大人達を従えてる・」
「はぁ?なんだそりゃ?」

「さぁ!さぁ!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!うちの看板娘リムの妙技をごらんあれにゃ!このフォグ様のお墨付きの奥義!・・」
 人だかりの内側ではローラの言った通りパジャマ姿をした可愛い娘が自分の前に膝まづいた大人達が目をつぶっているのをぐるりと周囲を回りながら手に持った大きなスタッフでぽんぽんとたたいて回る。するとその叩いた個所から淡い光が輝く。
 そんな光景を傍らにいる黒い喋る猫が少女のことをあおって回る
「頭が軽くなってくようだぁ」
「こんな事で悩んでいたなんて信じられないわ!」
「これがうちのリムの奥義!!教会でも病院でもこんな奇術は伝わっていないにゃ」
 叩かれた個所が光りだした人々は少女が何かをつぶやいた瞬間その人々が歓声を上げる。

「わぁ!ねぇ、お兄ちゃん!猫が喋ってるよ!それに尻尾も二本あるわよ!」
自分の肩の上からローラが解説してくるのを聞いてカッセルはその正体を教える
「あぁ、それはツインテールキャットって言うんだよモンスターレベルが・・・いやそれはゲームが違ったな・・一応喋る分だけ魔法が使えるやつもいるみたいだけど基本的には猫の修正で動いてるから安全なモンスターだよ。」
「へぇ!そうなんだ」
 カッセルの上で素直にローラが感心する。するとそこにカッセルを呼ぶ声が響いた。
「カーッセルさん!どうしたの?ローラちゃんとデート?」
「おおっとラキシュか。」
 そこに現れたのはフェニックス美術館の元館主のエンパイア家の双子姉妹の姉ラキシュ・エンパイアだった。
カッセルの仕入れてきた美術品系の遺産をカッセルのほぼ言い値で買い取ってくれる上得意様だ。
「いや絶対にありえない・・・。まぁ、それはさておき、何かここでストレスのたまった人間を一発で直してしまうって見世物をやってるみたいだな。」
 カッセルはフォグと名乗った猫の並べる口上のままにラキシュに説明した。
「ところでお前、今日は妹は一緒じゃないのか?」
「えっ?キルシュ?あの子ならそろそろ起きるんじゃないかな?朝、苦手だから」
「(まるで誰かみたいだな・・・」
「でも,何か面白そう!私も行ってくるね」
「行っちゃった・・・」
 割とプレーヤーに構って貰えなくてちょっと悲しいローラだった・・・

「さぁさぁ!他にリムの奇跡の証言者になってくれる人間はいないかにゃ?」
「はーい!私,やってみたい!」
「はい、どうぞ。では目を瞑って心を出来るだけ落ち着けて私の声に耳を傾けてくださいね。」
 ラキシュがリムと呼ばれた少女の言われたように目を瞑る。
「貴方を支配する過去の因縁の鎖、束縛の縁、ここに姿を現さん・・」
 幼いながらも良く通ったこえがその場に響く、その後,、先ほどとおなじ様に手に持った杖でラキシュの頭を軽く叩く
「soak up・・」
「・・・・?」
 叩かれた個所からの光が収まっていくがラキシュは何の変化も感じずにいた。
「綺麗な過去ばかり持っているんですね・・っこれなら私が食べなくても問題ないわ。」
「そうなのかな?まぁ今も幸せだけどね。」
「私の能力はストレスを消し去るから幸せな人には効果がないんですよ」
「そうなの?へぇ、まぁ、ありがとうね!」
 そういって軽く礼を言うとラキシュはカッセルの元へと戻っていった。
「・・・あ、れ?あの人」
 その時リムの目がカッセルを見つめていた

「どうだった?」
 ラ機種が帰ってくると案の定、純粋に好奇心でローラが感想をラキシュに尋ねてくる
「幸せな人にはあんまり効果が無いんだって。」
「あっ!お姉ちゃんだぁ!ラキシュお姉ちゃん!」
 そうしている所にラキシュの妹でもあるキルシュ・エンパイアが姿をあらわした。その傍らには一人の青年がついてきていた
「カミラも一緒か?今日は非番なのか?」
キルシュについてきた青年はカミラ・ソルティアだ。エンフィールドに長く続く騎士の家の青年で親の意向で数年間、旅に放り出されて帰ってから、アカデミーに入学、家の力も関係しているのかも知れないが本人の素養と機転のよさから僅か19歳でアカデミーを卒業したつわものである。
「一応青年団の手伝いというところか・・?アシュレイ殿から通達が出ていて最近は忙しいみたいだからな。それでパトロールをしていたらキルシュが姉を探したいって言って来たから付き合っただけだ。」
 当の本人は姉を見つけてぴょんぴょんと喜んでいる
「カミラ・・お前も女難の相か?大変だな」
「?,何の話だ?見たところカッセル君もお守に見えるんだけど・・?」
「いや・・なんでもない,互いの傷を触れ合うのは止めにするか・・。それにしてもこの娘さん達はこれからどうするんだか・・?」

一方二人の美青年を蚊帳の外にして少女達はこれからの予定を立てていた・・
「今日は私はお兄ちゃんとデートだから喫茶ロンドでフルーツパフェをおごってもらうの!」
「いいなぁ、私もぉ!」
「全く甘いわねウルトラ・デラックス・ジャンボ・ア・ラ・モードよ」
「んとんと・・それじゃあ私は・・う〜決まらないよぉ〜」

「さてっと、それでは俺はパトロールに戻るとするかな。後は宜しく」
その場の嫌な雰囲気を感じ取ったのかカミラはさっと身を翻してそこから退場しようとする。しかしカッセルはそれを阻むかのようにこう言い放った
「なっなに!・・そうはさせるか。おい、おまえ達ロンド行くんだろ?こんなところで悩んでないで向こうに言ってから悩んだらどうだ?」
「そう言えばそうね・・それじゃ早く行きましょ!」
カッセルの一言で、悩んでいた三人娘がこちらを振り向き、早く行こうとばかりに2人の青年の腕を取る
「一蓮托生だな・・」
「余計な事を・・」

「・・・」
「・・・わかるか?」
「あぁ、公園からずっとだな・・」
 公園を抜けたカッセル達は目的の喫茶ロンドに向けてフェニックス通りを歩いていた。
しかし公園を出たときからカミラとカッセルは自分達を後ろから追って来る気配に気づいた。
「知らない間に囮になっていたか・・こいつらを家に返す方がいいな・・ここは二手に別れるか・・」
「そうだな・・おいローラ、ちょっとものは相談なんだが・・」
 カミラの言うことに同意したカッセルは前を歩いているローラを呼んだ。
「なぁに?お兄ちゃん。」
「今さ、持ち合わせがないんだよこの前の遺跡も失敗したしさ。んで今日は送り届けてやるから帰らないか?今度成功したときはパフェなんて言わずディナーなり何なり用意するからさ。」
カッセルは内心断られると思いながらもローラの顔を覗き込んだ。
「まぁ、お兄ちゃんがお金持ってるとは思わないもんね。いいわよ。その代わり今度は絶対だからね!」
「それではお嬢様がたは私がお送りしましょう」
カミラはローラが承諾した後をすぐにつき、キルシュとラキシュの手を取ってすぐさまエンパイア邸へと向かって行った。

「(ちっ、やっぱりつけられてたのはこっちだったか?)」
カミラ達と別れたカッセルだったが、気配は一向に消えない。
「ここはどうする・・?ローラの場合は父親の所が一番安全か・・その前に相手を確認した方が良いな」
カッセルはそのままローラを家に送り家の前で後ろを盗み見た。
「(子供?・・どうしてまた)」
自分達を追っていたのは尾行には不向きであろう大きな杖と寝巻きみたいなローブを纏った少女だった・・

「それじゃお兄ちゃん、約束はチャント覚えててね!」
「あぁ・・・。お前も気をつけろよ。物騒だから・・」
そうしてローラを送ったカッセルだったが彼がニューフィールド邸を出たときにはその追っ手の姿は消えていた・・・

Ⅳラプソディ
「退屈りゅ・・」
 夕方も過ぎ去り夜の帳が下りる頃、ここ魔術師組合に不穏な動きが・・
ガサゴソ・・
プラムが魔術師組合に保護?されている部屋・・
「これからはプーの時間りゅ」
そうしてプラムは扉に耳をつけた・・

「やれやれなんでこんな夜に見張り番なんかしなきゃいけないんだ・・」
因みに現在魔術師ギルドでは夜毎正体不明の下級悪魔が発生すると言う怪事件が起こっている。
 実際それは大問題なのだが天下の魔術師組合が自分の内部の失態を認めたがらなかった為、普段は魔法生物が見張り番を任されているのだが非常時と言うこともあってローテーションで組合員が見張りに当たる事になっているのだった・・するとそこに魔力を感知するアラームが館内に鳴り響く
「あ、あ、悪魔さん。こっちの水はあまいりゅ!そろそろりゅ」
騒然疎なる魔術師組合を抜け出す不穏な影が一匹・・

「あれ?あれはプラムちゃん?」
 仕事帰りのリンネはさくら通りにフェニックス通りの和泉飯店の店の前でちょこまか動く影を発見する。
「クイックにセ〜ラ〜服貰ったけどやっぱりプーはお月様の光の方がよいです」
 そう言ってフラフラと歩いてくるプラム、しかし彼女にはリンネの姿が見えていないのかポテポテとこちらにやってくる・・
「りゅ〜。おいしそうりゅ〜・・プーはお腹すいたです。」
奇妙な一人称と語尾を持つ少女は和泉飯店の窓から店内に建ち並ぶ数々の料理を凝視していた
「おい、リンネ?仕事終わりか?って・・そんな所に突っ立ってどうしたんだ?」
そうやってプラムが張り付いている所にカッセルとクイックが遅い夕飯を食べようとやってくる
「カッセルさん、それにクイックさん・・。ほら、あそこに。」
「げっ!プラムじゃないか!魔術師ギルドに送ったはずだけどな」
「おやおやお腹が空いてるんですね」
やってきたクイックとカッセルもどうやらプラムに気づく。
「うーん・・でもおうちの人に連絡入れた方が良いんじゃないかな?」
「ギルドの連中だって飯ぐらい問題ないと思うがな・・個人的には今日は大人しく帰りたいけどな・・・」
「でも最近じゃ誘拐事件とか物騒な事件も起こってますから」
そう言ってクイック達が声をかけようかあぐねている間にプラムにひとつの人影が忍び寄る
現れた人影はそっとプラムの肩に触れる。
「そう・・プラムちゃんって言うんだ。」

「おい、2人共あいつ知ってるか?」
 プラムの様子を伺っていた3人がプラムに近づいた人影に気づく、しかし3人共その人影に見覚えがないようだ
「取りあえず保護するぞ」
「えぇ・・」

「?プーに何か用ですか?」
ちょうどその時、自分の後ろに居た人影に気づいたのか顔を窓から離す
するとふわっとした寝巻きに近い形をしたローブと背丈と不釣合いの長さの杖を持った少女が立っていた
「うん、ちょっとおいし・・ううん、何でもないよ」
「美味しそう・・チャイナが・・」
するとカッセル達がプラムを保護するよりも早く急遽後ろから現れたパルフェが謎の少女の服の裾を引っ張ってつぶやく
「えっ?そ、そうあそこのお料理が美味しそうって・・」
「違う・・可愛い女の娘がおいしそうって・・」
「えっ?」
 するとそこにリンネ達が駆け寄ってくる
「やぁ、プラムちゃん、それにパルフェちゃんまで食事かい?」
「クイックだぁ!プーはお腹空いたよぉ!」
「わかったよ、じゃあ僕と一緒に食事でもいかがかな?」
「わーい・奢り・・」
「カッセルさんの奢りね(笑)
時にそこの君は・・ってあれ?」
クイックがどうにかプラム達を保護しようとしたその時すでに少女の姿はなかった

「あの人とプラムちゃん達はわかるけど・・」
 その時、夜の風が動いて様な気がした

「はい酢豚に、八宝菜お待ち!」
「(それにしても何で俺はあんな子供からこいつらを引き離そうとしたんだ・・?)」
「時にあの少女はなんだったんでしょう?急に消えてしまったけれど」
「えっ何の話?」
 謎の少女が消えた後、結局カッセルの奢りという事で和泉飯店で食事をする事になった一行。しかし何故だか食事を終えたはずのリンネまで加わっている・・・そしてそこにさらに料理を持ってきた少女ラビナ・リューズが加わる。
彼女はここ和泉飯店の看板娘である。東洋を旅してきたエルフで今は家族で中華料理店として経営している。
「ここの窓に張り付いてたプラムちゃんに用があるみたいだったから、こっちから声を掛けたら急に消えちゃったの。」
「さぁな。もしかしたらここにいる2人みたいに腹が減ってたんだろ?」
そう言ってカッセルはパルフェとプラムを見る。
二人は食事には満足したのかデザートの杏仁豆腐を注文している
「それにしてもプラム。せっかく俺が送り届けてやったのにどうしたんだよ・・」
「おじちゃん達は退屈りゅ」
「ギルドの魔術師おじさん呼ばわりね・・」
「・・私を子供扱い・・ほぅ・・」
カッセルの言葉が棘にきたパルフェとプラムの言葉に肩をすくめるクイック
「ほらもう一度送ってってやるからもう帰るぞ」
そういってカッセルはプラムを抱えるようにしながら席を立つ、しかし本人はまだ帰りたくないようでじたばたとカッセルの肩のうえで暴れだす
「やぁだぁ!ぷーはまだ帰らないのぉ!」
「こ、こらそんなに暴れるんじゃない!」
「たすけぇてぇ〜さーらーわーれーるー!」
「誰がやねん・・っておわっ!」
じたばた暴れるプラムに向かってうっかり関西弁で突っ込むカッセル・・しかし次の瞬間、和泉飯店に阿鼻叫喚が走る
「何だ!この生き物は!?」
店中が正体不明の謎の魔物達で埋め尽くされたのだ。
「・・これは悪魔・・・・」
ボソッと呟くパルフェの一言に店中が大パニックになる。
「・・冗談なのに・・クスっ・」
 影でくすっと可愛く笑うパルフェだが正気をなくした客達は我先にと出口に駆け寄る、
 カッセル達も急に現れた謎の生物達にプラムを抱えたまま脱出を試みるがプラムがじたばた暴れ、思うように進めない
「嫌―だーさ〜らわ〜れる〜」
 しかしよくよく見ると現れた魔物はただぎゃあぎゃあ騒いでいるだけで襲い掛かる様子はない、若干逃げた客のいたテーブルのうえの料理をむさぼる魔物がいるくらいだが・・
 そしてただ呆然と立ち尽くしたカッセルの肩からおりたプラムがその魔物に近づいて行って
「みんなもお腹空いてたんだ!」
と屈託ない笑顔を見せるのだった

こうしてカッセルの長い一日は終わった・・・
END


補足NPC紹介


☆凛夢(リム)&フォグ
眠たそうな目をしてパジャマみたいなローブを身に纏っている少女とその傍らにいる人語を解するツインテールキャット(二尾の猫)

ラビナ・リューズ
大衆中華料理店の和泉飯店の看板娘。ポストパティな役なので街の情報は彼女が握っている(笑)

たとえばこんなアクション
☆カッセルについてく
☆児誘拐事件を追う
☆リムを追う


マスターより
さて長い間お待たせしました!悠久幻想曲の新作!
今回は4回からの不定期なのでもしかしたら超大作になるかもね(笑)(序章でそんな続かれても困るんだけど・・)
さてっと今回はこの人数でお送りしましたが次回から登録遅延分のキャラが参戦致しますのでご期待?下さい。尚、序章なのでアクションが送れた場合は極力頑張りますがキャラとストーリーにあわせてこちらで設定させて頂きますのでご了承おば・・
さて次回のアクション締め切りは10月28日消印有効です!