悠久幻想曲≒0第二話「湖中の蜃気楼」

人はなぜ過去にこだわるの?
強い力に引かれるの?
自分達を危険に晒す、そんな簡単なはずのことも分からずに。
人を支配する知識の迷宮にまた一陣の風が吹く…
過去を繰り返すために力を欲する矛盾した好奇心。


第一節<フロートメモリー
 男はその不気味なまでの黒を写し、白の中空に居た。
「まだ足りぬか…着実に増え続けているがその量は減っている」
 男は部屋の奥を眺めながらつぶやく、そこには緑色の光の奔流が穏やかに流れていた。その光の筋の先には巨大な扉が永い時に来訪者を待ち続けていた
「ここまでやっとたどり着いた…しかしなぜ開かん!」
 黒衣の男、スレイブは苦い顔で吐き出した。
人の記憶を操るという蜃気楼の塔。その上層部までは辿り着いたスレイブだったが、この純白の白に守られた部屋の扉が開くことは無く足止めを受けていた。
 彼の調べた古文書に書いてあった記憶の力がこの塔の動力源という事でエンフィールドから記憶を集めもした。それでも開かない扉はその圧倒的な力を持って粉砕しもした、しかしこの扉だけはどのような方法をもってしても、開くことはなく今もまだここに封印されている。
 そしてスレイブの集めた記憶、夢のエネルギーが光の筋になっているのだった
「しかし、それにしてもここを開けるにしても記憶の力を集めるにしてもアシュレイ。奴は邪魔だな。」
 そうつぶやくと彼はその場所に背を向け隣の部屋へと向かう
隣は神聖な白一色で統一されたこの部屋と対照的に無機的な印象の部屋だった。スレイブはその部屋の大人一人が楽に入れる筒の中に足を踏み入れる。
「記憶集積回路は思うにかなり極秘裏だったらしいな、お蔭で移動の便は悪くないが…」
 つぎの瞬間男の姿はすでに消えていた‥


第二節<人の記録と機械の記憶
「そうですか。いえ何でもないんです。ありがとうございます!」
「いやいいんだよ兼ねてからのリンネちゃんの頼みだからな、でも力になれずに済まなかったな」
「いえ、なにか分かったら連絡頂けますか?」
 朝の冒険者ギルド。まだ人がそんなに出ていない時間にリンネはそこに集まる情報を集めるために利用客達と話をしていた。そこにキルドの扉がさらなる来客を告げる。
「おはようございます」
「あっ、リムちゃん、来てくれてありがとう、」
 ギルドを訪れたのはフォグを引き連れたフォグだった。
 リンネは繭の遺跡からやってきたというリムが何か有益な情報を知っていないかと思いギルドに呼んでいたのであった
 しかし、リムの姿は例のごとくPCとカッセル達以外には見えていないためそれまで話をしていた冒険者は怪訝な顔をしてリンネを伺う。
「あっ、ちょっと私用が出来たんで出てきますね。」

 そういってリムを引き連れてやってきたのは付属図書館だ
「リンネさん、スレイブさんに付いては解ったんですか?」
 リンネは今回ギルドの立場をフルに利用し情報を集めていた。それは遺跡に限定したことではなく、今回の事件で分かること総てに関してだった。
 そして呼び出されたリムの方は記憶装置や遺跡の事の情報は知っている様だったが、スレイブに付いては知らないようだ。
「スレイブ、彼はやっぱり流れのトレジャーハンターでした。それも旧魔法時代、つまりはリムちゃんの故郷の遺産を専門に発掘するの、でもその強引すぎる手腕でギルドに要注意勧告が出ていたの」
 そういって図書館の資料を探しながら。リムに答える。
そしてそれと共にミリュウやキルシュが見つけた蜃気楼の塔について聞いてみる。
「所でミリュウちゃんが見つけたこの『蜃気楼の塔』ここに記憶装置があるのよね?具体的な場所に付いてなんか知ってることあったら教えてもらえないかな?」
 そう言いながらエンフィールドを始めとするローズレイクの海図のような資料を広げる。
「蜃気楼の塔の場所jは大体ここからここに掛けてだったと思います」
そう言ってローズレイクの北西部、エンフィールドに程近い一角を指定する。
「でもここに行くためには何かきっかけが居るみたいです。そのきっかけがないとその名のように蜃気楼のように近づいても霧のように消え去ってしまいます」
 しかしそこまで言うとリムは申し訳なさそうにこう付け加えた。
「私はあくまで記憶装置に付いての知識しかありません、だからそれを守るこの塔に付いてはなんとも正確な情報ではないです・・」
「それでも十分参考になったわ。時にカッセルさん達が行こうとしているあの繭の遺跡って何のための遺跡なの?」
 とりあえず興味本位で聞いて見るリンネ
「離れた場所から蜃気楼の塔を監視するための場所です。恐らくあそこならば装置に付いての対処法が記された何かがあるはずです。私はあそこに長い間眠っていました、だから明日カッセルさんに付いて行きます。」
「そう、判ったわ、行ってらっしゃい。気を付けてね。」
「あっ、そうだ彼のもって居るあの黒い剣なんですけど・・・。」
 すると資料をしまい、話を終わろうとしたリンネにふと思い出したようにリムが一言重要な情報を加える。
「私が居た時代の開発者の一人が持って居た剣にそっくりです。恐らくは何か特別な力のこもった魔法武具の一種だと思います。こんな情報で力にはならないとは思いますけど。それじゃ失礼します。」
リムが居なくなった出口から視線を窓に移し、リンネはそうつぶやいた
「過去の遺産を開放するのは構いませんが節度と言う物を守ってもらわなくては、人間は大きな過ちを犯してしまいます・・・。」
 しかしその顔はすぐに戦士の顔に戻っていた。
「だとしたら私達がそれを正さなくてはなりませんね・・・」


第三節<守るための力
「何か用か?」
「暇そうだなって思って。」
「巡回の最中だが?」
 St.ウィンザー教会前にてパルフェは獲物をまって居た、傍らに控える熊の縫いぐるみの山本さんもその気迫に押されていた
「手合わせ願いたい。」
 巡回中のカミラに向かってパルフェがせまる、余程前回スレイブにこけにされたのが悔しかったらしい
「格闘か?悪いが…ってちょっと待て」
 丁重に断ろうとしていたカミラだったがパルフェはかまわずに精霊魔法のスペルをつむぎ、戦闘体制に入る
「私の野望のために…散ってください……」
 すでに修行と言うより通り魔に近い状態のパルフェにさすがにカミラも応戦の構えを取る。
「くっ、はぁっ!」
 いきなり掛けてきたパルフェの姿が消えるも即座に反応することでカミラが反撃する。
「油断してるとこっちがやばいか。」
 一応正騎士のカミラだが、騎士の正道は剣術や槍術、無論一般?市民のパルフェにそれをふるえるはずもない、ついでに言うと現在の全PCの中でパルフェの戦闘術は2番手だったりする。
「フレイムジェイル!」
 カミラの詠唱と共に炎の折がパルフェを包む。
「ああっ!酷い!女の娘に手をあげるなんて!」
「先に仕掛けて来た奴の言う台詞か!」
 お気にの服を焦がされたパルフェのささやかなる精神攻撃。しかし対抗魔法を唱えることでそれを抑える
「あっ使えた…新しい魔法、」
ウンディーネか、空間を切りさく奴の能力からすればあまり期待は出来ないがな。」
 するとそこに図書館での調査を終えたリンネが通り掛かる
「あっ、パルフェちゃんにカミラさん。」
「リンネ…」
「何?パルフェちゃん?」
 リンネはそれまでの惨事をみて居なかったのか穏やかに話し掛ける。知らぬが仏とはまさにこのことだ。
「グラシオコロシアムのアイドル的存在のリンネなら…」
「はい?」
 そのまま理由も言わずにリンネにまで襲い出すパルフェ
「お、おいパルフェもうやめろ!」
「2対1も良いか…」
静止するカミラも無視してリンネに攻撃を加えるパルフェ
「そういう問題じゃない!」
 しかしパルフェの攻撃は空を切るばかり。その首筋にリンネの手刀が入る
「ちゃんと防御も考えないとやられるだけですよ」
「でも奴の練金魔法だと防御不能だろ?」
「そうでもないみたいです。確かに彼は一流の剣師です、しかしあの錬金魔法については彼の能力ではなく黒きあの剣の力の恩恵のようです。」
 リンネは別れ際にリムについて教えてもらった事を話す。
「じゃああの剣さえ無ければ何とかなるのか…」
「それが一番大変ですけどね」
そう言ってリンネが微笑みかけたそのとき、その場の雰囲気をぶち壊しにするような高笑いが響いた。
「ふっ、はははっ!貴様等ごとき小さき者が俺をどうにかしよう、と?笑わせる!茶番も良い加減にしてもらおうか。」
「スレイブ!?」
 突如として現れた張本人にみを引き締める3人、スレイブはと言うとまったくの無防備でたっている、しかしながら、その状態で
 すら強い剣気に当てられてまったく隙が見えない。
「ふん、安心しろ、今ここで気様らと事を起こす気はない」
 さも、面白くもない物でもみるかのようにスレイブはそう言い放つ
「どういう意味だ?」
「今日は仕事に来たんだ。時間がない」
「また、幼い子供を奪おうとでも言うのですか?」
「そうだ、と言ったら?どうする?力づくでも止めて見せるか?」
あまりにふざけた物言いに3人とも嫌気が差していた
「そうする・・・。」
 そう言ってパルフェがスレイブに殴りかかる。するとそれと共にスレイブの腰に下がっていた黒い剣が薄く輝く。
「(やっぱりその剣・・。)」
「さらばだ!アブソリュート・ゼロ!」
 スレイブの声と共に黒い球体が生成され射出される。
グオォォン・・・
生成されたブラックホールは独特の音を発しながら草木を飲み込みつつパルフェを襲う、しかし予想されていたとおりの行動に難なくそれを避ける。
しかしその次の瞬間スレイブの姿は消えていた。


第四節<繭を紡ぐ者
「さて、それじゃあ行くか」
「はあはぁはっ…、よかった、間に合いましたか!」
 時を変えて翌日、カッセル、キルシュ、ラキシュ、リムの一行は、クラムドックより船を借り、再び繭の遺跡へ赴くために準備をしていた
「文月堂のクイックか?何か俺に用か?」
 息せき切って掛けてきたクイックは何やら大量に入った袋を持ってきていた。
「繭の遺跡に役立ちそうなアイテムを選んで持ってきたんですよ、僕は店の方が有るんで動けないので、その代わりに」
「いつもは店に居ないクセに…」
「何かいいましたか?」
荷物をわたしながらラキシュの嫌みに威圧感MAXの笑みで受け流すクイック
「ま、まぁ、それは良いとしてどんな道具なんだ?」
 大量に並べられるマジックアイテムに困惑するカッセルに実に楽しそうに答えるクイック
「えぇ、このベルはですね、この押鋲を押すと生物が近づいて来ると鳴って教えてくれるんですよ。」
「へぇ、そりゃあ便利だな、不意打ちなんて真っ平だからな。」
 そういって持ってきたアイテムの解説を受けるとクイックは満足したように去っていった。

「ここが繭の遺跡、一度来た風景の場所を覚えてないなんて俺も落ち目かな?」
 何てことを呟くカッセル、するとキルシュがさっきクイックが持ってきた警鐘を持ってくる
「ねぇ、ねぇ、せっかくクイックお兄ちゃんがもって来てくれたんだからぁ、このアイテム使ってみようよ〜!」
 クリスマスプレゼントの開封を待ち望んでいるような表情でキルシュがカッセルを促す。
「あっと、そうだったな、折角何だから使わせてもらうか。」
 そういってクイックがキルシュが取り出した魔法の警鐘を手に取りボタンを押した。すると
ガンガンガン!
「うわっ!なんだ!この大音響、何か来るぞ。早く止めろ!」
 起動させた途端に鳴り響く大音響に逆に驚く一行、しかしそんな音がなったにも関わらず幾ら待っても何も近づく影は無かった。
「普通こんな音が鳴ったら様子の一つでもみに来ると思うが」
 そう言いながらもう一度起動させてみると
ガンガンガン!
「くわっ!やはりか。」
周りを見渡しても何もいないのにもかかわらず警鐘は鳴り響く、しいて言うなら自分達が居るくらいだ
「此奴は無差別に生物全体に反応するんだよ!例えそれが起動させた本人でもな!」
『つかえねぇ!』
 その場に居る全員がそう思ったのだった・・・
 ちなみにそのアイテムの他にも多量のアイテムが手渡されていたのだったが
通称炎の剣・・
「このコマンドワードでこの剣の攻撃力ははるかに上がるはずだ!」
ボワッ!
「あちちっ!くそっ(刀身だけでなく柄まで燃えている・・)」

通称パペットドール
「これさえあればあんなモンスターなんて私の思うが侭よ!えい!」
ぽんっ!
「あう〜ラキちゃ〜んやめてよ〜!」
「おい、キルシュ・・スカート、スカート・・っておわっ!(その場の全員が操れる操り人形・・・)」
 とこんな具合でまったく役に立った物ではなかった・・(ある意味効果どおりではあるのだが・・)

「ったくクイックの持ってきたアイテムは使えないし異様に敵の数は多いし・・(はっきり言ってリムとラキシュはともかくキルシュは俺が守ってやらないと駄目だしな・・・)」
 するとリムが壁に何かを見つけてその壁に手を当てる・・・
「内部から魔力の干渉があります・・・多分この遺跡が私が目覚めた事で正式に機能し始めたんです。」
「それって普通は主が居ない時に必要な機能なんじゃないか?」
本来の定石とはまったく逆な答えに聞き返してしまうカッセル。
「確かに普通はそうなんですが、ここは目覚めない限りは何の宝物も存在しない場所なんです。最後の繭の間は隠し部屋になってますし、繭を目覚めさせた人間は私が記憶を吸収して活動の糧を得るんです。」
「えっ?って言うことは、リムちゃんカッセルお兄ちゃんの・・・」
 リムの台詞を一瞬で理解するラキシュ
「はい・・・悪いとは思いましたがそのままだと私は行動する事ができません。そしてそれと同時に自分を解放した人間が遺跡に有害な人間か吸収した記憶から判断して必要があればそのままここに来た記憶に消えてもらうんです。」
「う〜んと、それじゃあ、急にお兄ちゃんの近くに現れたのは?」
いまだにカッセルは自分の物と主張するキルシュが問い掛ける
「それは一度、私がカッセルさんに開放されたとき問題がなければもう一度私は眠りに付く予定だったんですが蜃気楼の塔は既にうっすらと機能を開始していましたから信用できなくてもカッセルさんを街に帰して様子をみようと思ったんです。私の姿が見えるのは私を解放した人間と開発者達だけだったので。」
「でもこいつらは見えるっと。」
「それは皆さん強い夢や意識をもってるからだと思います。私や塔が吸収する記憶は子供達の物、これは一番感受性が高い方が都合が良いからなんですが、だから子供達にも姿が見えるんです。公園でフォグに魔法を掛けてもらって仮初めの姿を映してもらって行動する分の記憶を集めていたりはしましたけど。」
 リムは最初は意外そうな表情だったが自分の中の推論を話すに連れて落ち着いた口調に戻る。
「さあ、ここが最後の部屋『繭の間』・・」
 いつのまにか遺跡の最深部に付いていた一行、まだ聞きたい事はあったがリムにはぐらかされるように先に進んで行った。
「ここにリムちゃんがねむっていたんだぁ。」
「はい、そして私が完全に目覚めてからこの玉座の下に新たに入り口が開かれるんです。」
 そういってリムは自分が眠っていた台座に手を掛ける。するとそこには階段が続いておりさらに下にいけるようになっていた
「なんだ…これは?」
 4人が降り立った最深部には機械仕掛けの部屋になっていた。そしてその中央には青く光る何かが浮かんでいた。カッセルが手にしたそれは銀色のフレームにはめ込まれた蒼く澄んだ水晶玉だった
「確かそれは青の円水晶、あの塔の最上階へ行くための鍵となるんです…」
「そうか、あそこにはあのスレイブとか言う奴が居るしな、あいつをなんとかしない限りは無事に最上階にはたどり着けそうに無いがな、」
 リムの解説に今後の対策を考えるカッセル、しかしそこにキルラキ姉妹の建設的な意見が飛ぶ
「駄目よ、お兄ちゃん、その前にちゃんとさらわれた、子供の居場所を白状させてからよ!」
「でもでもぉ、肝心の塔の場所が分からないんだよぉ〜…」
「塔の場所に着いては問題ありません、いま画面に出します。」
 キルシュの言葉に部屋の機械をいじりながらリムが答える。その後軽く操作を加えると目の前にローズレイク近隣の地図が浮かび上がりその中の一点が赤く点滅した
「ここが塔の場所です。これから蜃気楼を取り除きます。」
「そんなことまで出来るのか?」
「そのための施設ですから、ちょっと待ってもらえますか?」
 そういってさらに操作を続けるリム、しかし暫くするとその場に独特な警鐘(アラーム)が鳴り響いた
「なになに?!どうしたのぉ!」
「塔が私たちの動きを察知しました。向こうから来ます!」
「闇人!?」
 アラームが鳴り響く中、周囲をすごい量の闇が押し寄せては人の形を取っていく。
「こんなすごい数倒せないよぉ(この遺跡で一匹も倒してない人)」
「お、お兄ちゃんがぜぇんぶやっつけてくれるわよ!(何げにこの遺跡で一番倒してる人)」
 すでになり振りを構っている余裕さえ無い状況にリムをせかす、
「もうちょっとです、あともう少し、」
「きゃあっ!」
「キルシュ!、くそっ!」
「みなさん!終わりました!」
 しかし、すでにその場は集まった闇人がさらに集まり、闇壁と化していて、その範囲を次第に狭めつつあった。
「あぅ〜怖いよぉ〜」
「っておい!キルシュお前のもってその錘はなんだ?」
カッセルが問い掛けたそれ、キルシュはどこからか取り出した糸を巻いておくための錘と言う棒を持っていた。
「えっ?これはクイックお兄ちゃんがもってきた袋の中だよ〜」
「ちっ、不安要素120%だがそれに掛けるしかないか・・おいリム!そっちはどうだ。」
「はい!終わりましたすぐに行けます」
リムのGOサインと共にカッセルはその不安要素たっぷりのアイテム銀の糸をはるか天井に向けて投げた。
時放たれた糸はそのまま空間を突き破り青空の待つ、地上へとまっすぐに伸びて行った
「よし上るぞ。さぁ、早く上るんだ!さぁラキシュも早く!」
開けた脱出口にみなを逃がしていくカッセルだったがラキシュだけはなぜかカッセルに先にいけと促す。
「うーんとお兄ちゃん先に行っても良いよ」
「どうしたんだよ!早くいけよ。」
「ンもう私はスカートなんじゃい!」
「す、すまん」

「ぷはぁ〜やっと出られたわ。」
「はうぅ〜帰ってこれないかと思ったぁ」
「っておい!あれをみろ!」
 脱出したのもつかの間、そこには不可視の封印のとかれた蜃気楼の塔がその姿をさらしていた
「とりあえず一度街に戻るぞ4人だけじゃ対処しきれないからな!」
そういってエンフィールドに帰還する4人+1匹だったがその背後にて塔がいまだ怪しく蠢いていた


第五節<青と灰色の空の下で
 街の闇の中を走って居た。自分を追ってくる者から逃れるように…
ポテポテポテ…
街の闇の中を走って居た。自分を守ってくれる者の元へと向かうために
ドキャ!
あっ、転んだ…
「あぅ〜、お腹空いたりゅ〜…」
 何処を走っているのかも解らない、後からは追手の足音が近づいてくる。少女は倒れながら子供心に『短い一生』とやらを噛み締める
「りゅ〜、ぷーもここで果ててしまうりゅ…」
 11年間分という多少短い走馬灯を見たかどうかはともかくそんな少女に何処からか声が掛かる
「あっプーちゃんだ!お菓子食べる?」
「食べりゅ〜」
 その明るい一言に暗転していた舞台に光がともる。そして今まで倒れていたプラムはウサミミをパタパタさせながら声の元へと駆け寄った
「あんまり保護者の居ない所でお菓子をあげるのはどうかとは思うんだけど…」
「細かいことは気にしない!」
 声を掛けてきたのは和泉飯店の中に居たラビナとミリュウだ。
「まぁ、それくらいは良いんだけど…プラムちゃん、クイックさんを見つけなかった?」
「クイッ君?さぁ?プーもクイッ君とこ行くー」
 どうやら二人はクイックを探しているようなのだが二人とも今日は青年団の仕事らしい。するとミリュウのすぐ後ろの肩口から本人の声が聞こえた。
「僕を呼んだかな?」
「えっ!きゃー、クイックさん!突然後ろからなんてセクハラで訴えますよ!」
「(何でですか…?)まぁ、それはともかくも何か僕にご用ですか?」
 ミリュウのいきなりの手痛い一言にチョット心が痛むクイック
「そうだ頼んでおいた品物そろそろ届いてるかなって。」
「あぁ、あの東方の符と言うマジックアイテムですか、確かに用意はしましたけどあんなに沢山何に使うんです。」
「あれでたぶん闇人を食い止めることはできるはずなの」
 東洋エルフのラビナは古くから伝わる呪符によって闇人を押さえられる算段を踏んでいた
「よぉ、嬢ちゃん達、青年団の方も闇人退治か?」
「あっ、ヴァルヴァドスさん。そうなんです。ラビナちゃんがこの呪符でなんとかなるって言うからみんなでこれを街中に張りに行くんです」
「こんな紙切れになんの効果があるんだ」
「これは本当は雑念を起こさせて魔法の詠唱を妨害させる為の符みたいですよ。」
 ヴァルの問いにクイックが答える
「でもこれを仕入れるの苦労したんですよ〜、お代は頂戴するからね。」
 とりあえず特注と言うことでわざわざ現地から取り寄せた一品らしい。
「それは青年団の経費で落ちたから、そっちによろしく〜」
「取り敢えずその符を引き取って、明日にでも作戦開始ですね!」
意気揚揚と張り切るラビナとミリュウ
「じゃあ今持って行きますか?今ちょうど店を閉めて来たんですけど明日早いなら今から取りに戻りますけど」
 基本的に女の娘には優しいクイック。
「ワシは取り敢えず腹ごしらえじゃ、小ちゃい嬢ちゃんはどうする?」
 商談が成立したのを見て取ってヴァルが皆に行動を促す
「食べりゅ〜」
「それじゃあごゆっくり〜」
 ヴァルたちをテーブルに案内して3人は出て行った。
外にはプラムを探す魔術師ギルドの職員がうろついていた。


「嬢ちゃんもけっこう食うんだな。」
「おいしいりゅ〜」
 一通り食事を終えた二人が一服していると窓の方から何かが動いているのが見て取れた。
「りゅ?」
 座席の位置的にヴァルからは死角になる窓からピョコピョコと動き回る耳の長い物体、
「!うざぎさんっ!」
 見た感じフワフワの手触りと見て取れる視線の先のウサギさんはプラムの心をくすぐるには十分だった。
 既にこのような光景になれ低るヴァルは特に何をするでもなくプラムを送り出した
「おい!嬢ちゃん、あいかわらずだな…。」

「りゅ〜ウサギさん?あれ〜リムだぁ!そのうさぎさんはリムの?」
 和泉飯店を出てからしばらく動き回るウサギを追いかけたプラムはそのうちそのウサギを抱えるリムとフォグに出会った。
「うん私のヌイグルミさん、自分で動くんだよ〜」
「(じぃ〜)あぅ〜」
 取り敢えず目の前にウサギのヌイグルミとフォグに囲まれて幸せ状態のプラムにリムが問いかける
「え、えと…欲しいの?」
「欲しい〜」
「じゃあ、私のお願いきいてくれる?そうしたらこれあげる」
「聞く!」
 素直なプラムに笑顔でリムがそばによる。
「目を閉じて楽しい事を一杯考えるにゃ〜、ちょっとじっとしてるにゃ」
「う、う〜」
 うさぎさんを欲しい一心でフォグの言うとおりにするプラムにリムはなにかの呪文を短く唱えてからプラムに口をつけた。
「りゅ?」
 それと共にプラムの考えた記憶がリムのなかへとはいって来る。しかしそこにちょっと待ったコールが掛かる
「ちょっとまったあ!嬢ちゃん!これはどういうこった?皆がおまえに協力しようって時に何をしようとしやがった!」
 ものすごい剣幕で捲し立てるヴァルに申しわけなさそうにリムが答える。
「済みません。ちょっと身体を維持するのが辛くって」
「身体を維持だぁ?どういう事だ?」
 突然のリムの告白に多少驚くヴァル。
「私は記憶装置の封印の解放と共に」動く者です。性質は記憶装置と変わらないんです。だから行動するのには人々の記憶が必要なんです。」
「何だと?もしやここ最近の誘拐事件って言うのはスレイブの野郎だけじゃなくて嬢ちゃんも?」
 ふと降りかかった疑惑の視線に必死に弁解するリム
「違うんです。確かに私はみなさんの記憶がないと身体も維持できません、しかし私の場合は身体一つですからそんなに量が必要じゃないんです。だから公園でやったみたいに記憶にふれあうだけでも十分なんです。ただ皆さんが親身になってくれるから、もうそういうことは辞めた方が良いかなって思ったんです。」
 リムの告白を最後まで聞いたヴァルだが次の瞬間声を挙げて笑い出した
「ヴァルさん?」
「はははっ!何を水くさいこと言ってやがんだ、俺たちがそんなことを気にするとでも思ってやがんのか?住人に危害が加わるって言うんなら俺たちも黙っちゃいないとは思うがな、試しにその小さい嬢ちゃんに聞いてみるんだな、」
 ヴァルの視線の先にはぎゅっと抱きしめられて悲鳴を上げているフォグと動く兎のぬいぐるみを抱えてご満悦のプラムの姿があった
「そう・・・ですね、ごめんなさい、折角の皆さんの好意をこんな形でうらぎってしまって」
「だから、そう言うぐだぐだした考え方がおかしいんだよ。もっと気楽に行こうや」
「りゅ?リムなんかあったりゅ〜?」
 二人の会話なんて聞いていなかったようにプラムがリムの頭を撫でる
「うん・・・、大丈夫だよ・・・、ごめんねプラムちゃん

その翌日
「さてと、それじゃラビナちゃん行くよ!」
翌日大量に符を持ったラビナとミリュウが立つ
「本当にやるの?」
「そうよ。せぇの!光の聖女ラピスの名のもとに」
「涙を背負って悪を絶つ!」
 なにやら戦隊物よろしくなノリでミリュウが名乗る。
ラビナは心底いやそうな顔をする
「早速おいでくださいましたね悪の化身!」
「微妙に丁寧じゃない語・・・」
そんなラビナの嫌味ももろともせずにあくの化身とされた闇人に特攻を掛けるように、そしてキョンシーを倒すようにその額に向かい雑念符を貼り付ける。それと共に符から雑念を思う存分に吸収した闇人は溶けるように掻き消えていく。
「いらっしゃいませ〜。正体不明の辻斬り魔に利く有り難いおふだはいかがですかぁ」
リュウのテンションに付いていけなくなったラビナが壊れてお札を住民に売りつけだしてしまう
「こら、ちゃんと働いてください。悪霊退散!」
「だぁって何かいろんな作品がかぶってきてるんだもん・・」
そうやってみるとなんとなくラビナが渋るのは判るような気はするが、ともかくこうして、青年団の働きによって住民が突如襲われるという事件は激減して行ったと言う・・・


第六節<写し鏡の迷宮
「パパ〜!今日は一緒に遊びにつれていってくれるんでしょ?」
「あぁ・・すまないローラ、青年団の最近ただでさえ事件が立て込んでいてな、各隊の報告書を取りまとめなくてはならないんだ。」
 ここは王立アカデミー上層部に作られたアシュレイの自室だ、アカデミーでは講師以上の者には学舎に資質が与えられている、本来はアカデミーの講師のアシュレイはスレイブ絡みの事件等で家を開けることもあった。
「この前もそう言ってたもん!」
 ローラのわがままに顔をしかめるアシュレイ。
「済まないなローラ、聞き分けてくれないか?」
 いつもは厳しい騎士のアシュレイもこの時ばかりは父親の顔になる
 しかし、いまの状態のローラにそんな事は通用しなかった。
「毎日毎日パパはお部屋にこもったきり、もうでてこなきゃ良いんだわ!」
バタン!
 最後にはローラは激しくドアを締めて、出て行ってしまった。


「パパの馬鹿ぁ。」
 アカデミーを出たローラはそのまま一人で日の当たる丘公園で寝転がっていた。
「みんな楽しそう、いいなぁ・・・・。ううん、パパなんか帰ってこなきゃ良いのよ!」
 辺りを見渡すと家族連れの子供が遊んでいる、それを羨ましそうに眺めていたローラだったが、すぐにアシュレイに怒っていたことを思い出して小さなプライドからそのまま仰向けに突っ伏した。
「ほぅ、おまえはそんなに父親に帰ってきて欲しくないのか?」
「えっ?うわあっ!」
 するといきなりローラの頭上から男の顔が降りてくる。
 正確には降りてきたのではなく仰向けのローラを上から覗き込んだのだが…
「それでどうなんだ?父親なんか嫌いなんじゃないのか」
 のぞき込んだ男は黒い鎧に身を包んでいた。
そうスレイブだ、しかし彼の事を知らなかったローラは胸を張って答える。
「そうよあんなパパなんかアカデミーにこもって出てこなきゃ良いのよ。」
「そうか…それも手だな。」
 スレイブはローラの台詞に何かをひらめいたように笑みをうかべ、こう付け加えた
「だったらその願い、この俺が叶えてやろう。」
「えっ、ちょっとどう言うことよ!」
 ローラはそうさけんだがスレイブはそのまま背を向け歩いて行ってしまった。
「ローラちゃん!」
「あっ、チトセちゃんだ〜どうしたの、そんな大きな声を出して」
 今の様子を見ていたチトセは驚きで声が出ない。
「どうしたの?そんな口をぱくぱくさせて?」
「ちょっと!い、今の誘拐事件の犯人よ!」
「えっ?」
 いきなりのチトセの台詞に、いきなり立ち上がるローラ。
「それって本当?チトセちゃん!」
「う、うん」
 普段は見せないローラの剣幕にオされながらチトセはこたえた。
「追いかけなきゃ!」
「ええっ!追いかけるのぉ?辞めようよぉ、私まだこの世にみれんあるしぃ」
 とりあえず今の状況で勝てるはずのないスレイブを追いかけようと言うローラに渋ってしまうチトセ
「教会に行けば未練なく天国にいけるわ!」
「ううんと・・・もっと遠慮しておく・・・」
 とりあえずローラの台詞に二つを天秤に掛けた結果ついにチトセが折れてしまう。

「何処に行くのかなスレイブのヤツ・・。」
「多分アカデミーの方だと思う。」
奇跡的にも後をつけて見つかってない二人は物影からスレイブの様子を伺う、因みに頭隠して尻隠さず、盗賊のスキルを持ってない二人は物陰から伺うというより家政婦が事件を見ている様な状態で周りの視線を集めていたがそれに気づかない。
「アカデミー?一体何のために?」
「ええっと。それはぁ。・・・」
 まさか自分のけんかに首をつっこんできたとも言えないローラ。
 さて一方のスレイブだが、そんな状態ではすでに見つかっている物と思われる二人だがスレイブは本当に気づいてないのか無視をしているのかは解らないが、そのまま公園をぬけ、アシュレイの居るはずのアカデミーの校舎へと入る
「やっぱり、あっ受付に話してる」
 何を聞いているのかは解らないが、スレイブは受付に何かを話し、校舎案内版に目を向ける。
すると業をにやしたローラがスレイブを呼び止める
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「さっきのガキか?どうした、そんなに父親に早く居なくなってほしいか?」
 アシュレイの待つ上層階へと向かいながらスレイブが分かっていたかのような台詞を吐く
「もういいよ!もう止めてよ!」
「まぁ、そう遠慮するな。もうすぐだ」
「スレイブ!アンタ何するつもりなの?」
 講師の私室が集まる区域を隔てる扉の前まで来てチトセが尋ねる、するとスレイブは黒の剣を鞘から抜き放つ
「なに、ただ父親が帰らねば良いと言うから手伝いをするまでよ。まぁ、見てるが良いさ。」
「こら貴様!この方はアシュレイ様の御息女だぞ!剣を納めろ!」
 するとスレイブの様子を見て取ったアカデミーの騎士が慌てて仲裁に入る。しかしそれを悪びれる風もなくふざけた台詞を話す
「この御息女様に頼まれた事なんでね。邪魔をすると後で大騎士様に何て言われるんだろうな。」
 そう言うと抜きはなった剣を真上に掲げてその力を解放する
「いにしえに作られた記憶、積み重ねた知識、英知を欲する亡者の鏡を照らせ!」
 スレイブが朗々と詠唱するとともに透明な光があたりを包む。
すると辺りの空気が凍った様な音を立てる。
「あんた何をしたのよ!」
「アシュレイを記録装置に記憶されたこの世全ての記憶で構成された、英知の迷宮に案内した。そこに居れば世界のあらゆる知識が手に入る。しかしその人々の探求心に包まれたそこから抜け出すことはない。」
「ええっ!そんな!パパ!」
 スレイブのセリフにローラが強引に扉の中に入っていこうとするのをチトセが止める。
「ローラちゃん!」
「放っておいたらどうだ?アシュレイは机にしがみついたまま離れようとはしないだろうが、まぁ、世界の全ての記憶の重さ、その重圧に耐え続けるが良いさ」
「あんたねぇ!自分が中に入らないからってそんな偉そうな事言うんじゃないわよ!」
「フン、断っておくが俺は全ての重圧に耐える覚悟はある、むしろ望む所だ。考えてもみろ、この世で自分の知らないことはない、ゾクゾクするだろう……」
END


例えばこんなアクション。
○アシュレイを助ける
○鍵の次は場所、蜃気楼の塔へ
○街にくるスレイブにちょっかい(笑)
○その他あのキャラにちょっかい(笑)

シナリオアイテム紹介
◇青の円水晶
どこか(めちゃエターナルメロディ…?)で見たような事はさておき、蜃気楼の塔の扉を開くためのプログラムが記録されている情報結晶。ちなみに銀の糸は?と言う突っ込みも棄却ね(笑)

マスターより
明けましておめでとうございます。
悠久≒0、今回も無事お送りすることが出来ました〜、新年早々遅刻も体裁が悪いですし〜
さてこの≒0、実は0の前哨戦チックに書いてます。
≒0で書きやすいキャラは0でも書きやすいだろうと言うことでもしかしたらなんちゃってマニュアルやらなんちゃって小説とか(笑)だすかも知れませぬ。と言うわけでイラストもSSも大募集っす!
同じく今回も人気投票(特典付き)も行うのでそちらも宜しく!

最後にシナリオの補足です。
アシュレイの救出〜はトルネコ〜みたいな変則ダンジョンです、方向音痴の方、迷路やらがあると入りたくなる方はご遠慮下さい。(笑)
あと誘拐事件関連は雑念符により鎮静化する模様ですが、その雑念を吸収するのでスレイブの思惑と言えばそうなります。
シナリオアイテムの青の円水晶にかんしては蜃気楼の塔の扉を開けるためのアイテムですが記憶媒体の一種なのでそれを使ったアクションがあれば採用するかも。

 NPCの動向については、アシュレイとローラは迷宮化したアカデミー(当然か…)
 カッセルはリムと一緒に蜃気楼の塔に向かう予定です。彼宛アクションは今回同様協力者求めてます。
 スレイブは塔でおとなしくしているか街に居るかです。彼宛てのアクションはどこに居るか予想してください

ラビナは毎回PCに合わせた調整役なので助力の入りそうな場所にどうぞ。

というわけで次回も冬でも常春のエンフィールドにてお会いしましょう。
次回のアクション締切日は1/14日です。